慣行、有機、自然。

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 現代の農業には、作物の栽培法にもじつにさまざまなものがあります。農家それぞれが独自の技術でもって作物を育てていることから、農家の数だけ農法がある、といっても過言ではないのですが、それらの農法をおおまかにわけると、慣行栽培、有機栽培、自然栽培の三つに分類することができます。

 

 慣行栽培とは、その名のとおり、現代農業でもっとも広く普及している栽培法で、皆さんが農業ときいてまずイメージするような、ごく一般的な農法です。皆さんが普段食べている野菜のほとんどはこの方法で生産されています。慣行栽培では、最先端の科学技術を用いて改良された品種、さまざまな農薬・化成肥料を使用することで、土地生産性を旧来より格段に向上させることに成功しました。慣行栽培は、四季を通じて均質の作物を大量に生産することをもっとも得意としています。 皆さんが四季を通じて同じ野菜を安価で購入できるのは、慣行栽培の発展があってこそといっていいでしょう。技術体系がしっかりと確立されているために、新たに技術を習得することが比較的容易であるという長所もあります。農薬や化成肥料による環境汚染や、食の安全への不安が指摘されることもありますが、現在はさまざまな関係機関によるチェック体制がととのっており、以前よりもリスクは低減していると思われます。

 

 一方、有機栽培とは、慣行栽培が農薬や化成肥料などの無機化合物を大量に用いるのに対して、それらの化学物質を使用せず、かわりに有機化合物や天然由来の無機物を用いることからその名がつけられました。有機栽培では、周囲の自然環境や生態系の保全をとても重要視しており、一部を除いて農薬は使用せず、肥料も家畜の糞尿からつくられる堆肥や米ぬか、魚かすなど天然由来のものを使用します。堆肥などの有機化合物は、土中の微生物の活動が活性化し、土壌改良効果も高いことから、慣行栽培でも積極的に用いられています。ただ、微生物による分解が充分に進んだ完熟堆肥はそれほど問題にならないのですが、微生物による分解が充分でない未熟堆肥は、大量に用いると農薬や化成肥料同様に環境汚染の原因となる場合があります。堆肥を完熟させるには年単位の時間がかかるために、未熟なままの堆肥を使用してしまうケースがあり、問題視されています。また、現在日本で飼育されている家畜の多くは飼料と一緒にさまざまな抗生物質などの薬品を処方されており、それらの家畜からでる糞尿を堆肥に使用することがはたして安全なのか、と疑問を呈する方達もいます。

 

 最後に、自然栽培です。これは『奇跡のリンゴ』の木村秋則氏によって一躍有名になった栽培法ですが、その実践者によって手法もじつにさまざまで、定義することが非常に難しい農法です。私の考えでは、自然栽培の理念とは「自然から学び、自然と調和する」ということではないかと思っています。自然栽培では、農薬は一切使用しないことはもちろん、基本的に堆肥などの有機肥料も用いられません。農薬や肥料を使用しないだけでなく、除草をしない、畑の耕起もしないという実践者も多くいます。「自然界の植物はすべて、肥料や農薬なしに元気に育っており、もちろん土の耕起や除草もされていない。どうして畑の作物にだけそれらが必要なのか?」という疑問が、自然栽培の出発点です。人間が余計な手を加えずに、畑を自然そのものの状態に近づけていけば、作物は植物本来の生命力を取り戻し、元気に生育するはずである、という考えで自然栽培は実践されています。農薬だけでなく、肥料すら使わずに本当に作物が育つのか、私も当初は疑問に思っていました。しかし、実際に無肥料無農薬で作物の栽培を続けている農家が全国にまだ数は少ないながらも存在していることは確かな事実です。

 

 (ちなみに、わが農園では、農薬は一切使用しませんが、必要があれば雑草は刈りますし、土も耕起します。大豆を緑肥として栽培してもいるので自然栽培に該当するかどうかは意見の分かれるところだと思います(木村秋則氏は大豆の緑肥としての使用を明言していますが)。また今後堆肥を一切使用しないと決めているわけでもないので、あえて自然栽培ではなく、無農薬無化学肥料栽培を名乗っています)

 

 以上、慣行栽培、有機栽培、自然栽培それぞれの概要を簡単にご説明いたしました。言葉が充分でないことは重々承知しており、それぞれの栽培法の実践者の方々からお叱りを受けることもあるかと思います。ただ、これまで農業に興味をお持ちでなかった方が、このコラムを読んで、野菜の栽培法ひとつとってもさまざまな手法や考えがあることを理解していただき、それらについて興味をもっていただけたら幸いです。